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「屋上に連れて行ってよ」

2008年結成のインディーフォーク・バンド、ROTH BART BARONの「屋上と花束」が痛烈に描き出すように、学び舎という存在は、時としてひどく息苦しい。同じ服を着せられ、同じ方向を向かされ、なにかに追い立てられているかのように集団への所属を強要される。常ならば抵抗なく順応できるそれに対して、叫び出したくなるような日がたまにある。

そういう日には昼休みに屋上へ行く。美術室横、かけられた絵に挨拶をしながら一段一段、わたしがいる場所を確かめるみたいに階段をのぼる。喧騒に満ちた各階を通り過ぎて辿り着く先、屋上の鍵は開いていない。それでもいいのだ。附属高校の屋上入り口には幾台かの机があって、黄ばんだ資料やふるい教科書が散乱している。うっすらと埃の積もった椅子にもたれて、重なった紙のあわいをゆびでさぐるとき、なんだかすこしだけ息をしやすくなった気がする。本や紙に記された記憶や記録の数々は、デジタルに刻まれたそれよりもはるかな質量と熱を持ち、なぞるだけではるかな時代のきらめきが、再びかたちを得て立ち昇るようにわたしには思える。もう二度と戻れない時間の隙間に潜り込めるあの空間がわたしは好きだ。息苦しい現在は、埃や塵と一緒くたになって隅っこのほうに追いやられている。

あの場所にはただ、ドアの隙間から差し込む陽光に照らされてほのかにひかる過去の残骸だけがある。だからわたしは時々、あの場所に隠れたくてたまらなくなる。

※タイトルはROTH BART BARON による2019年リリース「けものたちの名前」収録「屋上と花束」より引用